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現代2017/12/8

「好き」への想いがつくる道 – 羊毛作家:渡辺泰子(ワタナベ ヤスコ)さん②

服飾系の会社を退社した後、渡辺さんはさまざまな仕事を手伝っていたそう。

 

辞めた後は、どのように過ごされていたんですか?

しばらくは手芸用品店で働いたり、専門学校時代の恩師の紹介で舞台衣装の制作をしたりしていました。

舞台衣装制作はとても勉強になりました。

自分の力量が知れ、反省することも多かったです。

 

しかし、自分の中ではやはり「服ではなく、何か違うものをつくってみたい」という気持ちが拭えませんでした。

自分がやりたい表現ができていなくて、ふつふつしていました…。

 

そんなときに、当時住んでいた家の近所で羊毛専門店があることを知ったんです。

 

(生活にあたたかみを添える、渡辺さんの作品たち。 HPから)

 

 

◎履歴書と手紙を持って扉を叩いた

 

羊毛専門店とは、珍しいですね。

そうですね。羊毛専門店自体あまりメジャーじゃないので、近所にあったことに運命を感じました。

専門学生の頃に羊毛に触れて感じた衝撃を思い出して、ピンときたんです。

店員募集はされていなかったんですが、履歴書と手紙を書いて羊毛専門店の本社に送りました。

 

情熱的ですね!

「どうしてもここで働いてみたい!」と思ったんです。

当時23歳でした。

 

結果は…?

採用して頂けました。

それからずっとそこで店員として働いています。今年で7年目になりました。

 

7年!ベテランですね。

羊毛屋で働きだして、羊毛(フェルト)という素材をしっかり基礎から教えてもらいました。

 

専門学生の頃は羊毛単体を基礎から学ぶことがなかったので、どうしても思うようなものがつくれなかったんですね。

でも、羊毛専門店で素材の基礎から勉強して、初めてイメージ通りのものをつくることができました。

羊毛でバッグができたんです。

 

それがもう、本当にうれしくて、感動しました。

「羊毛って、なんて楽しいんだ!」って。

 

それから、店員として働きつつ、個人では手作り市等で作品をつくるようになりました。

夢中になって羊毛と関わっているうちに、あっという間に7年が過ぎていたという感じです。

7年といえど、まだまだ勉強することばかりです。

 

(愛嬌のある表情が印象的。 渡辺さんHPより)

 

 

◎好きなことと向き合う日々

 

羊毛作家として活動されるのと同時に、羊毛専門店の店員さんとしても働かれているということですね。

はい。私にとって、羊毛屋の店員という仕事も羊毛作家の仕事も、どちらもとても大切です。

羊毛という素材のおもしろさや楽しさを、羊毛屋に訪れるお客様に伝えていけたらと考えています。

 

しかし、人と直接関わる仕事はダイレクトに感情が伝わるので、なかなか大変なこともあります。

世の中には、人と関わる仕事しかないですけどね。

 

なるほど。

好きなものに携わっていても、やはりつらいときというのはあるんですね。

そうですね。

作品をつくっていても壁にぶつかるときはありますし、そういったときは時間が永遠のように感じます。

 

でも、やっぱり出来上がるとそれ以上の喜びに出会えるので、続けています。

 

(口からティッシュを吐き出す、不思議なティッシュカバー。 HPより)

 

世の中には、「好きなことは仕事にするな」なんていう声もありますが。

そうですね、いろいろな意見があると思います。

私の場合はですが、好きじゃないことを仕事として続けるのが難しかったので…。

 

今はありがたいことに、羊毛屋の店員や羊毛作家の他にも、物づくりの講習を行ったり、絵を描いて買って頂いたり、好きなことしかやっていません。

収入は安定しないこともありますが、会社員だった頃よりも毎日充実感を感じています。

 

これまでいろいろなことがありましたが、毎年「今が一番落ち着いている!」と思います(笑)。

 

(赤ちゃんの足をやさしく守る、ベビーシューズ。 HPより)

 

 

◎「日常に潜む生き物」の誕生

 

渡辺さんは、羊毛作家として「日常に潜む生き物」をテーマに作品をつくっていらっしゃいますよね。

はい!

 

 

 

 

すべて渡辺さんHPより

 

とても個性的で、可愛くておもしろい生き物だなぁと思うのですが、これはどういったきっかけで生まれたのでしょうか?

羊毛で作品をつくり始めて、最初はただつくりたいものをつくっていたのですが、だんだんと作品に何かテーマが欲しいと考えるようになりました。

 

テーマを決めるにあたって、紙にいろいろな文字や絵を書きなぐっていたのですが、そのときに「日常に潜む生き物」という言葉が生まれたんです。

そしてふと、「これって自分のことだな」と感じました。

6年前のことでした。

 

「日常に潜む生き物」の中に渡辺さんご自身の姿が重なったということでしょうか。

昔から、物1つ1つにきっと感情があるんだろうな、という不思議な感覚があったんです。

例えば一見なんの変哲もない羊毛の塊でも、「ここ、目みたいだな」とか「ここは鼻かな」とか、まるで生き物のように見えたりして。

 

そうした感覚があると同時に、自分もその生き物たちと同じだと思ったんです。

 

今でこそこうしてインタビューにお答えしていますが、内側のさらに内側にいる自分は、あまり表に出たくない

日常に潜んでいるような人間だと思うんです。

 

それ以来、「日常に潜む生き物」というテーマで作品を制作しています。

 

 

◎作品は、命を削った自分の分身

 

作品を制作するときは、やはり好きなことなので楽しいという思いが大きいですか?

いえ、それが、つくっているときはつらいという気持ちの方が大きいんです。

 

そうなのですね。

はい。

やはり、作品1つ1つが自分の分身なんですね。

自分の命を削ってつくっている、という感覚があるので、その作業は苦しいです。

でも形ができてくると、少しずつ楽しくなってきます。出来上がると、大きな喜びに変わります。

 

命を削ってできたものですから、まさに分身ですね。

そうですね。

作品ができるたびに、そのときの自分の心が作品に表れています。

 

4、5年前、寝ずに作品をつくっていた時期があったのですが、やはり今見ると当時の作品からは荒々しさを感じます。

「私を見て!」という、生き急いでいる感じを受けますね。

作品としてできていないのに、自分に酔っているのが表れているというか。

 

なるほど…。当時はご自身にもそういう部分があったのですか?

そうですね。

確かに当時、「ちょっと自分…天才かな?」とか思っていた部分がありました(笑)。

自分自身を気にかけていなかったので、作品のことも気にかけていませんでした。

当時のものを見て、「病んでるなー」なんて思うこともあります。

 

今は無理しないように、自分で自分を管理しながら作品を制作しているので、落ち着いた作品ができるようになってきたと思います。

昔よりも、今の方が客観視して作品をつくれているといいますか。

 

そういった作品の雰囲気は、見る人にも伝わるのでしょうか。

伝わると思います。

おもしろいのは、私自身が楽しんでつくることができた作品は、展示会でお客様に手に取って頂けることが多いんです。

逆に荒々しい気持ちでつくられた作品は、見て頂けなかったりします。

 

にょっきり、猫キャップ。 HPより

 

なるほど。それぞれの作品に異なったパワーがあるのですね。

毎日物づくりに向き合っていると、スランプに陥ったりしませんか?

スランプ…なります!

もう抜け殻みたく、頭が働かなくなりますね。

 

自分から何も出ないときは、キャンプに行ったり、人に会ったり、映画館や美術館に出かけたり、なんにもしなかったり…インプットとアウトプットをひたすら繰り返しています。

あとは、よく寝ます!睡眠は大事です。

 

羊毛作家として制作過程の他に、難しいと感じる部分はありますか?

そうですね…難しいと感じるのは、作品への値段の付け方です。

 

値段をしっかり付けることで、作品に向き合える部分もあります。

もちろん高くなりすぎはNGなので、その匙加減が難しいですね。

 

値段の付け方ですか!意外です。

でも確かに、自分でつくったものに自分で値段を付けるって、なかなかに難しそうです。

 

 

◎「羊毛作家」として日々感じること、考えること

 

羊毛作家として活動される上で、ご自身が「成長した」と感じるときはありますか?

作品を展示する場所が日本国内で広がっていくと、少し成長したなぁと感じます。

 

例えば去年(2016年)は新潟県や宮城県の石巻、香川県の直島などで展示させて頂く機会がありました。

以前展示させて頂いた場所でもう1回展示、というように人の輪が広がっていくこともあります。

これからも、無理のない範囲で成長していけたらと考えています。

 

素敵ですね!では、羊毛作家として喜びを感じるのはどういった瞬間でしょうか?

そうですね…たくさんあります。

いまはSNSで気軽に作品をアップできるようになって、海外の方に見て頂ける機会も増えました。

特に台湾や香港では羊毛が流行っていて、働いている羊毛屋にも海外の方がいらっしゃることもあります。

 

私のホームページで作品を見たお客様がオーダーしてくださったりして、作品たちが国内外のあらゆる場所に羽ばたいていくと、嬉しく感じます。

喜びの瞬間ですね。

 

分身たちが海を渡るというのは、感慨深いですね。

それでは、羊毛作家として今後挑戦してみたいことはありますか?

羊毛で舞台美術品を制作してみたいです。

作品の中には日常で使いにくいアイテムがあったりするので、ステージや撮影などに生かせたら素敵だな、なんて考えています。

自分の分身たちが舞台に乗ったり、いろんなところに行き渡ったりしているのを見てみたいですね。

 

取手のない熱いコップも持てて冷めにくい、コップカバー HPより

 

 

◎いま、伝えたいこと

 

いま将来で悩んでいる10代や20代の人に、何かメッセージを頂けますか?

やりたいなと思うことを続けていれば、自然と道ができていくから大丈夫だよ、ということを伝えたいですね。

 

自分が「好きだな、楽しいな」って感じることをすごく大切にしていくと、大切に思った分だけ自分の道の幅が広がると思います。

 

やったことはどんな形でも戻ってきて、自分の経験になります。

父がよく「自分が努力したことは必ず返ってくる」って言っていたのですが、その父の言葉は本当だなって、いま思います。

 

周りの人たちを大切にして、ぜひ自分の「好き」を追いかけてみてください。

 

 

(おめかしをした帽子のアップ。 HPより)

 

 

まるで妖精のような、ふんわりとした魅力を持つ渡辺さん。

柔和に語られる一言一言からは、ひとつのことをやり遂げる意志の強さや、困難にぶつかっても負けない明るさ、そして思慮深さを感じました。

 

私たちは先のこと憂うばかりに、ときとして自分の気持ちから逃げてしまいがちです。

人生の選択ひとつとっても、そうかもしれません。

「好きだけど」「やってみたいけれど」諦めてしまう、なんてことはありませんか。

 

渡辺さんのお話は、未来の可能性を広げていくのは自分自身であるということを、いま一度私たちに思い出させてくれました。

 

誰のものでもない一生に一度の人生だからこそ、恐れずに飛び込んで、そして楽しんでいきたいですね。

 

今回インタビューに答えて頂いた渡辺泰子さんの個展が、2017年12月13日(水)から開催されます!

 

 

Yasuko Watanabe : 日常に潜む生き物展3

身につける すべてのものに 命をふきこもう

いつもの 毎日に そっと潜ませよう

羊毛を用いて作るルームシューズやブックカバーたち

 

サイズに合わせてお作りする受注製作もいたします。

 

他にも、バッチやマスコット、はじめて絵のポストカードも作りました。

 

日常に潜む生き物たちを探しにいらしてください。

(「日常に潜む生き物展3」より)

 

 

2017年12月13日(水)~2017年12月17日(日)

【吉祥寺 CLOSET】にて開催

場所:〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町3-3-9 2F

時間:12時~19時(最終日は17時)

URL:http://poool.jp/

作家在廊日:全日

 

 

 

(温もりを感じるルームシューズとブックカバー。すべて個展にて展示予定)

 

 

(2014年の作品「ひみつのともだち」(油絵) 個展ではポストカードになっています)

 

【作家紹介】

 

渡辺泰子

WATANABE YASUKO

1987 6 24 生まれ

tokyo japan

羊毛作家。絵描き。

文化服装学院 デザイン専攻卒

「日常に潜む生き物」をテーマに羊毛で創作活動をしている。

個展やグループ展での発表のほか、音楽、ファッションショー、雑貨、商品グッズなどのコラボレーションなど行っている。

 

公式ホームページ

http://hisomikimono.wixsite.com/mysite

公式ブログ

https://ameblo.jp/yasuko-watanabe/

Facebookページ

https://www.facebook.com/yasuko.watanabe.hisomu/

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