一筋の光を
見つめ続けた人物
OUTSIDER

海外2017/02/24

ヘンリー・ダーガー:2つの世界に生きた男

 

ヘンリー・ダーガーという人物を知っていますか?

 

彼は20世紀のアウトサイダー・アーティストです。

彼の作品である『非現実の王国で』と名付けられた長編小説と、その世界が描かれた数々の挿絵は1972年、ダーガーが81歳で亡くなる直前に発見されました。

 

大きいものは3mにもなったという大小さまざまな絵は、粗悪な紙の上に描かれ、所々新聞や雑誌から切り抜かれた子どもたちが使われています。

緻密に描き込まれ、狂気じみた執念すら感じるこれらの作品は、見る者をとらえて離さない不思議な魅力を放っています。

 

ヘンリー・ダーガーを「アーティスト」と形容するのはふさわしくないかもしれません。

なぜならダーガーは一生を病院の雑用係として過ごし、死の直前まで誰も彼が作品をつくっていることを知らなかったからです。

 

「ホームレスのような」身なりをしていたというダーガー。

彼は孤独のなかで、一体何をつくりだしていたのでしょうか。

そして彼はなぜ、誰にも言わず1人で作品をつくり続けたのでしょうか。

 

今回は、ヘンリー・ダーガーについて紹介していきます。

 

 

「アウトサイダー・アート」とは?

 

アウトサイダー・アートとは、正規の美術教育とは無縁の作者たちがつくる芸術作品のことを指します。

 

私たちは葉っぱを描くときに緑、空を描くときには青や水色を使いますよね。

これは、私たちが社会生活を送る中で自然と身に付けた「視覚イメージ」であり、無意識に刷り込まれた正規の美術教育の結果です。

 

なんらかの理由でこうした正規の美術教育に染まらずに過ごした人々が、すでにある美術のイメージや枠組みの外側(=アウトサイド)でつくる自由な表現の芸術作品。

それが、アウトサイダー・アートです。

 

 

「クレイジー」と呼ばれて

(『非現実の王国で』の1枚)

 

ヘンリー・ダーガーは1892年、アメリカのシカゴで生まれました。

ダーガーが8歳の頃、唯一の家族だった父親が身体を悪くしたことでダーガーは孤児院へ送られました。

 

元々少し変わったところがあったダーガーは孤児院で「クレイジー」と呼ばれ、周囲に馴染めない日々を送ります。

12歳の頃に感情障害と診断され、「リンカーン精神薄弱児施設」という障害児の養護施設に入れられました。

 

施設で過ごしていた1908年3月1日、ダーガーの父親が亡くなります。

「もう自分を助けてくれる人はいない」という悲しみに暮れた16歳のダーガーは施設を脱走。シカゴに戻り病院の床拭きとして住み込みで働き出しました。

 

ダーガーはその後3つの病院を転々としながら床拭きなどの雑用係として働き、一生を過ごします。

その間もダーガーは周囲の人々に溶け込むことができず、また彼の「クレイジー」というあだ名も生涯ついてまわりました。

 

 

下宿の小さな一室で

(ヘンリー・ダーガーの机)

 

生涯独身だったダーガーは、1973年に81歳で亡くなる直前まで独身者用の小さな下宿部屋で暮らしていました。

 

ボロボロのコートを羽織って足を引きずり、ひび割れた眼鏡をかけていたダーガー。

近所の人々は「人付き合いの悪い、みすぼらしいホームレスのようだ」としてダーガーとは関わりたがりませんでした。

彼はいつも孤独で、そして彼自身も積極的に人と関わろうとしませんでした。

 

ダーガーが下宿を去った後片づけのために部屋を訪れた管理人が発見したのが、ダーガーが40年間1人で描き続けていた数百枚という膨大な数の絵と、それを製本した巨大な3冊の画集。

そして15冊の物語の原稿でした。

 

これがのちに有名になるアウトサイダー・アート、『非現実の王国で』です。

 

 

非現実の王国で

(『非現実の王国で』の1枚。ヴィヴィアン・ガールズ。)

 

『非現実の王国で』とは正式な名前を

 

『非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ-アンジェリニアン戦争の嵐の物語』

 

といいます。

全部で15,415ページにものぼる世界最長の小説は、原稿とともに大小さまざまな挿絵が残されていました。

 

物語の舞台となる王国は「キリスト教軍」と悪魔を信仰し子供を奴隷として使う「グランデリニア国(以下敵軍)」で二分されています。

この2つの軍の間で繰り広げられる4年と7ヶ月に及ぶ大戦争がこの物語のメインテーマです。

 

そして主人公はキリスト教軍の幼い7人の王女たち、「ヴィヴィアン・ガールズ」です。

 

物語は生々しい虐殺シーンから奇妙な姿をした獣たち、色とりどりな植物など細かくカラフルに描き込まれた挿絵が目を引きます。

そして何より主人公である王女たちは、とても1人の孤独な男性が描いたとは思えないほどの表情の豊かさでした。

 

ダーガーは40年もの間、仕事から帰ると部屋で黙々とこの物語を描き続けていたのです。

 

 

抑圧への抵抗

(『非現実の王国で』の1枚)

 

王国の長い大戦争で、不死身なヴィヴィアン・ガールズは時に敵軍の残虐非道な仕打ちの数々を受けます。

ヴィヴィアン・ガールズや、子供奴隷たちを支配するのは強欲で残酷、邪悪な大人たちです。

しかし彼女たちは負けることなく、気高く可憐に戦い続けます。

 

ダーガーはこの物語の中で、「クレイジー」として周囲から蔑まれ、抑圧されていた自分を解放していったのではないかといわれています。

 

口うるさい病院関係者や、ダーガーを「狂人」として扱う心ない近所の人々。

そして正義が歪められ救いのない現実世界を批判するように、『非現実の王国で』ではさまざまな形で圧迫され虐げられる人々がその力に抵抗し、勝利していく姿が描かれています。

 

家族も友人もおらず、生涯孤独だったダーガー。

しかし閉鎖された一見孤独な下宿の一室の中には限りなく自由で、そして希望のある世界が広がっていたのです。

そしてダーガーは、その世界で人知れず抑圧に抗い続けていたのでした。

 

 

2つの世界に生きた男

 

ダーガーは生きている間になぜ『非現実の王国で』を公表しなかったのでしょうか。

彼には作品で有名になろうとか、お金を手に入れようだとか、そういった野心はありませんでした。

王国の物語はダーガーが彼自身と、そして信仰していた神のために描いたものであり、彼自身を不条理な現実世界から守ってくれる存在だったのです。

 

彼は『非現実の王国で』について以下の言葉を残しています。

 

金鉱の金をもってしても、

世界中の銀をもってしても、

いや全世界をもってしても、

これらの絵を買うことはできない

 

ダーガーにとって「非現実の王国」はただの作品ではなく、彼にとってのもう1つの世界でした。

ままならない現実世界を拒み孤独の中に生きながら、彼は非現実の世界に自分の心の救いを求めたのです。

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