1999年(平成11年)に誕生してから、全国で増え続けている「公立中高一貫校」。
私立校に比べて安価な学費で中学校から高校まで6年間の一貫教育を受けられるとして話題になりました。
あれから18年経った現在、公立中高一貫校を取り巻く環境はどう変化したのでしょうか?

きっかけは「ゆとり教育」だった
公立の中高一貫校が生まれたきっかけは、1999年当時文部省(現:文部科学省)が推進していた「ゆとり教育」にあります。
1980年代から、ゆとりのある学校教育を目指そうと実施されたこの教育政策は、1999年に全盛期を迎えていました。
公立の学校で6年間という時間をかけゆとりを持って子どもたちを育てよう、というのが元々のコンセプトだったのです。
そのため、入試体系も私立中学受験のような「教科試験」ではなく「作文」や「適性検査」のみという独特なものでした。
また、学区で決まっている公立校に行くか、私立を受験するか、というそれまでの学校選びに「公立の中高一貫校」という選択肢を新しく加えることで、子どもたちの学び方を多様化させる狙いもありました。
「中高一貫」と聞くと、教育カリキュラムに力を入れた進学校のイメージを持ちがちですが、もとの始まりは子どもたちのゆとりを目指してのことだったのです。
1999年:日本初の公立中高一貫校が開校

1999年、宮崎県の県立五ヶ瀬中等教育学校、岡山県の市立岡山後楽館中学校・高等学校が国内初の公立中高一貫校として誕生しました。
その後流れは全国に広がり、2005年には東京都初の公立一貫校である都立白鵬高等学校・付属中学校が開校。
2009年には神奈川県初の公立一貫校として県立相模原中等教育学校、県立平塚中等教育学校が2校同時に設立されました。
ちなみに公立中高一貫校には3つのタイプに分かれていて、それぞれの以下の特徴があります。
(1)中等教育学校型:
中学を前期課程、高校を後期課程とした6年制の学校。
前期課程から後期課程へはエスカレーター式で、
高校からの新規の入学者はいません。
中学入学時に試験があります。
(2)併設型:
元々あった高校に新しく中学校を併設した一貫校。
中学入試を合格すれば、高校へは試験なしで進学できます。
高校進学の際に外部からの入学者がいます。
(3)連携型:
市町村の中学校と都道府県の高校が連携し合って中高一貫教育をする学校。
過疎地域において生徒数を確保する目的があります。
学区内の中学校に、試験なしでそのまま入学します。
2017年:公立中高一貫校は高倍率に

1999年に第1号が設立されてから18年、公立中高一貫校の入試倍率はどんどん上がっています。
特に倍率の高い首都圏では、2016年度の平均入試倍率が6倍から8倍という人気ぶりです。
公立の中高一貫校の人気の高さには、主に次の3つの要因が関係しています。
(1)ゆとり教育の失敗
ゆとり教育が本格的に実施されて以降、国際学力調査で日本の子どもたちの学力が低下していることが分かり、問題になりました。
「ゆとりのある教育」から「世界に通用する教育」が学校に求められるようになると、それに合わせて公立一貫校も学校ごとに独自のカリキュラムを組むように。
勉強だけでなく部活動や学校行事に力を入れ、学力と同時に「人間力」を育てるユニークなカリキュラムが注目されています。
(2)圧倒的な学費の安さ
公立中高一貫校は中学の学費が無償で、高校の学費も一般的な公立高校とさほど変わりません。
中高一貫の私立に比べると格段に安価で、なおかつ質の高い教育が受けられるとして人気です。
(3)難関大学への合格実績
公立中高一貫校の一期生たちの大学合格実績が発表されると、そのレベルの高さが話題になりました。
例えば東京都立小石川中等教育学校は2016年度、卒業生148人中14人が東京大学へ合格。
同じく都立武蔵高等学校・付属中学校は卒業生191人中11人が東京大学へ。
東大に受かること=優秀というのは安易な考えかもしれませんが、設立から20年も経っていない中これだけ高い合格実績を出せるということは、それだけしっかりとした教育が行われているということなのでしょう。
こうした卒業生の合格実績を見て、公立中高一貫校に興味を持つ人も多いようです。
一方、デメリットも明確に

全体的には成功している公立中高一貫校ですが、デメリットも出てきています。
・教師の転勤
1人の教師が長くいる私立校と違って、公立校の教師は平均で3年~5年ごとに転勤してしまいます。
実力のある先生や人気のある先生も異動してしまうのはデメリットといえるでしょう。
校長も転勤するのでそれに伴い学校の方針が変わる、なんてこともあるそう。
・中だるみ
中学から高校へ試験なしで進学できる中高一貫校はメリハリがつきにくく、また環境に変化が起こりづらい分子どもたちが中だるみしてしまう恐れがあります。
6年という長い年月を有効に使えるか、そうでないかは子どもの過ごし方で変わってきます。
・イメージとの差
生徒数で学校の存続が決まる私立校に比べ、つぶれる心配のない公立一貫校は学校のPRなどの広報活動がまだまだ未成熟。
情報源が少ないために入学後のイメージがつかみにくいというデメリットがあります。
無事試験に合格したは良いものの、想像していた学校生活と違う…となる場合も。
今後これらのデメリットをどう解消していくかが大切になってきます。
ますます勢いが加速する公立中高一貫校

現在全国に約400校ある公立中高一貫校。
2017年には神奈川県に2校、長野県と大阪府にそれぞれ1校ずつ開校する予定です。
文部科学省は「各都道府県に最低1校」、「全国に合計500校」を目標にしており、これに向けて公立中高一貫校は今後ますます増えていくでしょう。
それまで私立校だけのものであった中高一貫教育を公立でも。
新しい学び方の波が、これからさらに広がっていきそうです。